2020年が始まって半年も経たないうちに、この世界はゆっくりと、ひっくり返り始めた。
「新型コロナウィルス感染症」とかいう、迷惑な未知のウィルスによって。
中国の海鮮市場で蛇を食ったか蝙蝠を食ったか知らないけど、動物からの感染なんだってさ。
うん、めっちゃ迷惑。マジで迷惑。傍迷惑どころじゃなくてリアルガチで迷惑。
最初にこのウィルスのことが騒がれたのは確か、1月ごろからだったと思う。
当時私はシェアハウスに住んでいて、初めの数日間はハウスメイト達とテレビを眺めながら不安になっていた。
シェアハウスに住むようになった経緯は今書くとめんどくさいので、そのうちどっかで書くと思う。たぶん、きっと。
日を追うごとに増えていく感染者数と死亡者数、発表されないワクチンの開発。
「すぐ収まるかなあ」「死者出たってやばくない?」「怖いね」「どうなるんだろう」漠然とした言葉が飛び交っていたのを、なんとなく覚えている。
そして当時私は、スキー場でレンタルの仕事をしていた。
身長と体重、それから足のサイズを訊いてウェアーやらスキーブーツ、スノーボードを都合してあげて、終わったら返してもらう。
19-20シーズンは全国的な雪不足で、ピークを過ぎると客足はパタリと止んだ。
まあ来なくなるよね。雪は少ないうえ、どこに中国からの観光客が来てどこにウィルスがいるのかなんてわからないもん。
暖冬による雪不足+コロナショックによる売上減少でスキー場はダブルパンチ。当然、レンタルショップもひまひまのひまで、お客さんゼロの日が数日続くこともあった。
そんなこんなで3月に入ると、私は予定を繰り上げて早めに実家に帰ることになる。まだまだいたかったなあ。未だに心残り。
そして荷物をまとめて帰郷する際中にも、世界はめまぐるしく変化していった。
目を見張るほどの感染爆発、各国の都市封鎖、起きてしまう集団感染、執拗なまでの外出自粛、叫ばれる社会的距離、etc....。
5月現在。外出を控えて毎日のようにSNS・ネットに氾濫する情報を読み漁り、世界各国のニュースと睨めっこをし、マスクの残量を気にしては手洗いとうがいに固執する日々が続いている。
自宅に引き籠って終息を願うことしかできない私にとって、世界は冬の海原に揉まれる船のようだ。前方から荒波がやってくれば船首がぐんと上がり、真横から波濤が叩きつければ船体はぐわんと揺れる。
そうして抗えない難敵を相手に四苦八苦しているうちに、ゆっくり、ゆっくりと世界という船はひっくり返っていくように感じられる。
全世界の医療現場では医療従事者たちが見ず知らずの患者を救おうと懸命に仕事をこなしていて、あらゆるスーパー・コンビニ・ドラッグストアで店員たちが感染を恐れながら必死に接客対応をしているにも関わらず。
悲しいかな。その最中でも、私の眼には。
世界という名の船が無事に戻ってくる未来が見えない。
事態が終息さえすればすべてが元通りに戻るとはとても思えなくて、不透明な不安が腹の底からジワリと滲み出てくるのだ。
まるで、シャツに染み付いてしまった汚れが何度洗っても落ちないように。
明日、明後日、明々後日の世界は一体、どうなっているんだろう。