なつなつ雑記帳

It`s My Life.

【介護】セクハラ老人の行動に介入して脳震盪起こした話

 

 

介護職の置かれた労働環境は厳しいものがある、らしいということはなんとなく知っていた。つもりだった。

2021年9月、私もそのド真ん中にいることをまざまざと思い知らされることになる。

 

手っ取り早く言えば、認知症男性の暴走を止めようとして頭を打ち、脳震盪になった。

 

勤務していたグループホームの入居者A、男性80代。

若い頃はトラックの運ちゃんで、かなりのイケイケ系だったらしい。男性職員に話しかけられると口調が過激になることが多々ある。「なんだァ!」「うるせえよこの野郎!」「馬鹿野郎め!」何かとつけて大声で正論を吐いては、他の入居者から「うるさいねえ」「怖いねえ」「いやだねえ」と言われるも……当の本人はどこ吹く風。かえって逆ギレすることも。口早にまくしたてようとするけども悲しいかな、寄る年波には勝てず。ろれつの回らぬまま唾を飛ばす。彼のことは苦手を通り越して大嫌いだったが筆を進める。

 

同じく入居者B、女性90代。

夫からDVを受けていたとか不倫をして大修羅場になったとか、そんな身の上話を聞いた気がするがはっきりと覚えていない。もっとも、事実なのか不明だしね。

「私もう死にたいの」「もうヤダこんなの」「誰か助けてお願いだから」「おじいちゃん助けて」

……口癖としてはだいたいこんな感じ。その都度「Bさんはね、もうあと20年は大丈夫だよ」「まぁまぁゆっくりいきましょ、ね?」「オレまだ20代だよー?」なんて軽口を叩いてやり過ごしてきた。

 

さて、この入居者A。男性職員に対してはやたらめったらと厳しいが女性職員となれば態度が急転する。ニマニマ笑いながら「はいよ」と穏やかに応じてくれる。

問題は、同じ入居者に対して手を出すことだった。暴行じゃない。性的な意味で。

施設のテーブルは2つあり、奥と手前で性格や会話頻度、体調面など考慮しつつ、座る人を分ける。すぐ激昂するAは奥、泣き言だらけでもまともな方のBは手前のテーブルに座らせている。

 

ここで気をつけるべきは「AとBを相対させない」こと。

Aを自分の旦那、もしくは恋人と勘違いしてるのか、BからAへのアプローチがまあまあな頻度で行われる。手を振ってみたり、「こっちに来て」と声を張り上げる。するとAは、ニマニマしながら立ち上がって、ヨタヨタとBがいる手前のテーブルに歩いて行こうとする。

脚の挙動不自由でタダでさえ立ち上がり要注意の人間が、女の尻を追いかけるためだけに動き出すと職員も相応の対応を迫られる。転倒リスク軽減のために気をそらしたり、トイレに誘導したりしてエンカウントさせないように動くが、大抵通用しない。

「(Bが)呼んだから来てるんじゃねえか!!どけこの野郎め!!」

と罵声が飛んでくる前提で心を決めないといけない。まあ、間違っちゃいないんだけども…...。

 

そして、事件が起きた。

当時のシフトは、私と社員の二人体制だった。社員はあくまで人手不足のヘルプなので利用者の身体に触れる介護は基本的にしない。食事作りや清掃、配膳、利用者との対話などが主になる。余談だがその社員、初任者研修受けてない。日本有数のクソデカ介護運営会社で初任者研修受けずにお仕事勤まっちゃってるのは逆にすごいと思う。

 

土日だったので事務室に人もいない。

社員の人に夕食を作ってもらいつつ、入居者をトイレへ誘導していたと思う。正直、この辺の記憶はやや曖昧だけども業務の流れに当てはめるとそうなる。

 

手前のテーブルにいたBが奥のAを手招きして呼び、Aはヨタヨタ歩いてくる。Aが立ち上がった時点で止めに行けばよかったが、他の対応中ですぐにはいけない。当然、私は間に割って入る。老人同士の乳繰り合いは全くもって需要がないし、仕事の邪魔。怒号を飛ばすAと揉み合いになり、そのあとの記憶がない。

 

後で聞いた話では、社員さんはちょうどしゃがんで食材の確認をしていたから肝心の現場は目撃していない。厨房から出てくるとすでに事は終わっていて、Aと私が二人とも倒れこんでいた。Aは異常なさそうだったが私が頭を抱え込んだまま反応がなかったので、Aをチェックしてから床に伸びてる私をどうにか休憩室に運び込んだらしい。椅子の近くに頭があったからぶつけたのかも、と。ありがとうございますホントに……。

余談だがBはプチパニックを起こして失禁していた。

気がついたら休憩室の天井が見えた。頭全体がズキズキしてめちゃめちゃ不愉快。知らない天井だ、じゃなくてよかったとしか言いようがない。

 

どうにか自分の足で休憩室から出てきて、何が起こったのか伝えたらしいのだがAとBの名前があべこべだった。介護職員が介助されるってなんぞ?格闘ゲームでダメージ受けた後、小鳥が頭でピヨピヨするような感じ。その後夜勤に入っている管理職が早めに施設にやってきて、30分ほど早く帰らせてもらえた。

 

「脳震盪だと思うから病院に行った方がいい」とのことで、自力で運転して最寄りの救急外来に飛び込んだ。問診の最中、看護師が「健忘あり…」と小声でつぶやいてたのがちょっと面白かった。聞かせるなよ、そんなワード。

医者と対面で座り、腕や肩を動かしたり視線を確認したりいろいろテストのようなことをやって「しばらく安静に過ごしてください」と言われて終わり。勿論、バッチリ労災扱いなので0円診察。その日は自宅に帰って体を休めることに集中した……。

 

という、毒にも薬にもならない体験談。フォローしてくださった社員さんには心の底から感謝を。Aはマジで許さないけども。